はじめに

不倫・浮気による慰謝料請求において、示談書の中に、不倫・浮気相手が今後配偶者と連絡・接触することを禁止する旨の条項が盛り込まれることがあります。
そして、連絡・接触の禁止に違反した場合に違約金を支払う旨の条項が置かれることがあります。
今回のコラムでは、このような連絡・接触禁止条項と違約金条項の法的効力について、ご説明させていただきます。

連絡・接触禁止条項と違約金条項の条項例

連絡・接触禁止条項と違約金条項は、実際には次の例のような定め方をします。

第〇条(連絡・接触禁止)
1 甲(不倫・浮気相手)は、乙(不倫・浮気をされた被害者)に対し、今後一切、丙(乙の配偶者)と面会をしないこと、および電話、手紙、メール、SNSなど方法のいかんを問わず、丙と連絡を取らないことを約束する。
2 甲は、前項の約束に違反した場合には、乙に対し、違約金として、1回当たり〇〇万円の違約金を支払う。

また、社内不倫(職場内の不倫・浮気)の場合には、業務上の連絡・接触はやむを得ないことを前提として、次のような条項とすることが考えられます。

第〇条(連絡・接触禁止)
1 甲は、乙に対し、今後、業務上必要やむを得ない場合を除いて丙と面会をしないこと、および電話、手紙、メール、SNSなど方法のいかんを問わず、丙と私的な連絡を取らないことを約束する。
2 甲は、前項の約束に違反した場合には、乙に対し、違約金として、1回当たり〇〇万円の違約金を支払う。

連絡・接触禁止条項の法的効力

一般的に、連絡・接触禁止条項を定めるのは、不倫・浮気による慰謝料が支払われたあとも離婚をせずに、夫婦関係を継続する場合です。
連絡・接触禁止条項を置くのは、通常は配偶者と不倫・浮気相手との関係を解消し、平穏な夫婦関係を再構築することを目的とするものだからです。
そのため、連絡・接触禁止条項は、離婚をせずに夫婦関係が継続する限りは有効ですが、その後離婚に至った場合には効力を失うと考えられています。

仮に離婚後にも連絡・接触を禁止する内容の条項を定めたとしても、そのような内容の条項は公序良俗に反するものとして法律上無効になると考えられます(民法90条)。
なぜなら、離婚をして貞操義務のなくなった元配偶者や不倫・浮気相手の行動について、法的に制限を加えるわけにはいかないからです。

違約金条項の法的効力

連絡・接触禁止条項の違反に対して違約金を課す違約金条項は、損害賠償額の予定の定めとして(民法420条)、法的には原則として有効であると考えられています。
ただし、数百万円以上の高額の違約金を定める条項は、一部無効とされる可能性が高いと言えますので、注意が必要です。

不倫・浮気による慰謝料の相場は、離婚に至った場合には150万円~200万円程度、離婚に至らない場合には100万円以下となります(ただし、個々の事案ごとの様々な具体的事情により、金額が増減することがあります)。
これに対し、たった1回連絡を取ったに過ぎないにもかかわらず、300万円や500万円あるいは1000万円を超える違約金条項があるからといって、条項どおりの請求が認められるのはバランスを失する、というのが法的な考え方なのです。

連絡・接触禁止条項の違反に対するペナルティとしては、10万円ないし50万円前後が相場的な金額でしょう。

高額の違約金請求の裁判を起こせば、裁判官は、「公序良俗に反する(民法90条)」、「心裡留保である(民法93条)」などの理由付けをもって、違約金条項を一部無効とすることが考えられます。
相場を大きく超える額の違約金の定めは公の秩序に反するため無効である、と考える裁判官は多いでしょう。
また、心裡留保(しんりりゅうほ)とは、実際にそのような高額の違約金を支払うつもりがないのに支払を約束したという意味です。
そして、違約金を請求する側がそのような真意を知っており、または知ることができたはずだと言える場合には、法律上、違約金条項が無効とされてしまうのです。
そのため、認容される違約金の額は10万円ないし50万円前後にとどまる、という結果に落ち着くことが想定されます。

まとめ

以上を踏まえて、示談書に連絡・接触禁止条項と違約金条項を設ける場合には、法的に無効とされないような現実的な内容とすることが大切です。
また、違約金をめぐるトラブルが発生した場合には、連絡・接触禁止条項と違約金条項の有効性を的確に判断して対応を検討する必要がありますので、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

(弁護士・木村哲也)

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