はじめに
不倫・浮気相手の配偶者に不貞行為の事実を知られると、慰謝料を請求される可能性があります。
そして、実際に慰謝料の請求を受けた場合には、冷静に交渉対応をしていくことが大切なのですが、驚き・不安・焦り・後悔・罪悪感・悲しみ・怒りなどのお気持ちから、不適切な対応をしてしまうことも少なくありません。
今回のコラムでは、不倫・浮気による慰謝料の請求を受けた場合に、やってはいけないことをご説明させていただきます。
本コラムの内容を、慰謝料請求への対応の参考としていただければと存じます。
①相手方からの請求・連絡を無視する
相手方からの連絡・請求を無視してはいけません。
相手方が話し合いの余地なしと判断すれば、訴訟(裁判)を起こしてくることが考えられます。
また、無視された相手方が感情的になり、不倫・浮気の事実を周囲の人に伝えるなどの行動に出るおそれもあります。
なお、訴訟が提起された場合には裁判所から訴状等の通知が届くのですが、これを無視すると相手方の言い分に従って判決(支払命令)が下され、預貯金や給料を差し押さえられることが考えられます。
無視せずに適切に交渉対応をすれば、適正な条件で解決できることが多いです。
②感情的になって対応する
慰謝料の請求を受けたことに驚き、感情がたかぶってしまうことがあります。
不倫・浮気相手から「夫婦が不仲だ」「もうすぐ離婚する」「別れたら一緒になろう」などと言われて交際したというケースも多く、そのようなケースでは慰謝料の請求を受けたことに納得できないという気持ちになるかもしれません。
しかし、夫婦関係の破たんの確たる裏付けを取らずに肉体関係を持てば、慰謝料の支払義務を負うのが通常です。
慰謝料を請求してきた相手方も感情的になっていることが多く、こちらも感情的になって対応してしまうと、感情的な対立が激化してトラブルがより深刻化するおそれがあります。
相手方の感情を逆なでする言動をすると、激高した相手方が職場・実家・家族に不倫・浮気の事実を知らせる・怒鳴り込む、インターネット・SNSに不倫・浮気の事実を書き込むなどの行動に出るかもしれません。
この点、相手方が不倫・浮気の事実を第三者に暴露する行為は、プライバシー侵害・名誉棄損に該当し得るものであるため、後々相手方を訴えることができるかもしれません。
しかし、後々相手方を訴えたとしても、不倫・浮気の事実を第三者に暴露されることによって失われた社会的な信用を取り戻すことは、困難かもしれません。
冷静かつ丁寧な対応をするのがよいでしょう。
ご自身で対応することに不安がある場合には、弁護士に交渉対応を依頼することもご検討いただくとよいでしょう。
③相手方が有利・自分が不利になる余計な発言をする
電話や面談で相手方と話をする際に、相手方は会話を録音している可能性がある、ということは想定しておかなければなりません。
相手方が依頼した弁護士との会話であっても同様です。
一般的に、会話の当事者が自身と相手とのやり取りを録音することは違法ではないと考えられており、録音の許可なく無断で録音をとっても問題はないのが原則です。
ここで、不用意に余計な発言をすれば、本来は支払う必要のなかった慰謝料を支払うこととなってしまったり、慰謝料の請求額を増額されてしまったりするおそれがあります。
相手方が有利・自分が不利になる発言には、十分に注意する必要があるでしょう。
この点、弁護士にご依頼いただけば、不適切な発言を避けながら、解決に向けた話し合いを進めていくことが可能です。
④嘘をつく
既婚者と肉体関係を持ったにもかかわらず否定するなど、嘘をつくことにはリスクがあります。
慰謝料の請求を受けた当初は証拠を出してこなかったとしても、すでに証拠を握られている可能性は十分にあります。
嘘をついたことが分かってしまうと、相手方を怒らせてしまうことが考えられ、慰謝料の減額交渉が難しくなるかもしれません。
⑤その場しのぎの約束をする
早くその場を収めたいという気持ちから、その場しのぎの約束をすることは避けなければなりません。
例えば、「〇〇〇万円だったら支払います」などの発言をしてしまうと、上記のように録音をとられているかもしれません。
その場しのぎであろうと、約束してしまった以上は、その内容を果たす法的義務があるのが通常です。
「〇〇〇万円を支払う」という内容の書面にサインをしてしまった場合も、支払義務を負うのが原則です。
「あの時は相手方の怒りを静めるためにサインをしたけど、やはり高すぎると思うので撤回したい」と考えたところで、通用しないのが基本です。
この点、約束をさせられた経緯が強要に近く、金額も相場の数倍に当たるなど、特殊な事情があれば撤回が可能なこともありますが、あくまで例外的なケースです。
また、書面や録音などの証拠を押さえられていなくても、一度言ったことを撤回し、「言った、言わない」の争いになるなどすれば、相手方を怒らせてしまうことが考えられ、慰謝料の減額交渉が困難になるかもしれません。
⑥相手方の脅しに屈する
慰謝料を請求してくる相手方は、感情的になっていることも多いです。
中には、「慰謝料の支払に応じなければ、不倫・浮気の事実を会社に教える」、「遠くに引っ越さなければ、不倫・浮気の事実を近所の人たちに教える」などと脅しをかけてくるケースもあります。
このように、相手に脅しをかけて自身の意に従わせようとすることは、脅迫罪・強要罪という犯罪に該当し得る行為です。
たとえ不倫・浮気をしたという落ち度があるとしても、相手方の脅しに応じる必要はありません。
相手方が脅しをかけてでも要求してくる内容は、過大な額の慰謝料の支払であったり、義務のないことを行わせようとしたりするものであることが多いでしょう。
相手方の脅しに屈してはいけません。
ご自身で対処することが困難であると思ったら、すぐに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
⑦相手方の言い値で高額な慰謝料を支払う
慰謝料の額は、法律で上限が定められているわけではありません。
当事者が合意さえすれば、いくらでも支払ってもよいのが原則となります。
そのため、相手方が請求してくる慰謝料の額は言い値であり、相場よりも高額であることが多いです。
しかし、慰謝料の請求を受けたことで焦って相場を大きく超える金額の支払を約束してしまったり、実際に支払ってしまったりするケースが少なくありません。
支払の合意は、書面はもちろん口頭でも成立するのであり、上記のように、発言したことは録音にとられている可能性があります。
慰謝料の額については、合意前・支払前に弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
⑧相手方の不当な要求に応じる
相手方からは、慰謝料の支払だけでなく、様々な要求を受けることがあります。
この点、相手方の配偶者(不倫・浮気相手)への連絡・接触禁止を要求されることがありますが、相手方夫婦が離婚をしない場合には不当な要求であるとは言えず、円滑な示談解決のために応じるべきことが多いでしょう。
また、謝罪文の提出を要求されることがあり、法的に提出の義務があるわけではないのですが、感情的になっている相手方の怒りを静め、示談書の取り交わしに漕ぎ着けるための最後の一手として謝罪文の提出が行われることがあります。
一方で、社内不倫(職場内の不倫・浮気)のケースで退職を要求してきたり、自宅が近所のケースで引っ越しを要求してきたりするなど、法的な義務がなく負担の大きい不当な要求が行われることがあります。
このような相手方の不当な要求に応じる必要はありません。
相手方からの不当な要求への対応に苦慮しているのであれば、弁護士を立てて交渉していくこともご検討いただくとよいでしょう。
⑨相手方が出してきた書類にそのままサインをする
慰謝料の請求では、相手方が示談書などの書類を出してきて、サインをするように要求してくることがあります。
「示談書」というタイトルだけでなく「合意書」「和解書」「念書」「覚書」など様々なタイトルが考えられますが、大事なのはそこに書かれている内容です。
相手方が出してきた書類には、ご自身にとって不利な内容のことが専門的な法律用語で記載されていることがあり、それにサインをしたのであれば、その内容を果たす義務が発生するのが原則です。
強制的に呼び出されたり、自宅まで押しかけられたりするなどして、このような書類にサインを強要される場合がありますが、後々「無理矢理書かされた」と主張しても覆すことは困難なことが多いです。
相手方が出してきた書類にそのままサインをすることは避けるべきであり、まずは一旦弁護士に相談する、という対応をとるのがよいでしょう。
⑩示談書を作成せずに終わらせる
相手方と話し合って慰謝料の支払に関する合意ができたのであれば、必ず示談書を取り交わすようにしましょう。
示談書には、慰謝料の額と支払時期、追加で慰謝料の請求をしないことなどを明記します。
このように、追加で慰謝料の請求をしないことを約束し、明記しておくことは非常に重要です。
例えば、慰謝料として100万円を支払うことを口頭で取り決め、示談書を取り交わさずに支払を終えたとします。
この場合、後々相手方から「自分が把握していた時期よりも前から不貞行為が行われていたことが分かった。そうなると慰謝料として100万円では少ないから、追加であと100万円を支払うべきだ」という請求を受けるかもしれません。
このような追加請求から身を守るために、必ず示談書を作成し、その中に「甲(相手方)および乙(ご自身)は、甲と乙との間には、本件(不貞関係)に関し、本示談書に記載するもののほかに、何らの債権債務がないことを相互に確認する」という条項を設ける必要があるのです。
まとめ
以上のように、不倫・浮気による慰謝料の請求を受けた場合に、やってはいけないことには様々なものがあります。
しかし、驚き・不安・焦り・後悔・悲しみ・怒りなど、様々な感情が渦巻く中で、ご自身のご判断だけで適切に対処していくことは困難かもしれません。
慰謝料の請求を受けてお困りの場合は、まずは法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、慰謝料の請求を受けた方の減額交渉の事案を多数取り扱っております。
ぜひ一度、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。
(弁護士・木村哲也)
当事務所の弁護士が書いたコラムです。
ぜひご覧ください。
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